2016-02-01から1ヶ月間の記事一覧
非常によくできた短編で、だれかヴィスコンティみたいな映画にしてくれるといいだろうなあと思わせる作品。 アメリカと日本、戦中と戦後の混乱のなかで生きた父娘のすれ違いが、目に浮かぶような描写とともに流れていく。 もうこういう作品は日本人では書け…
堀江敏幸編集の「記憶に残っていること」の冒頭にある短編。 カナダへ移住したロシア系ユダヤ人一家が、新しい地で生活を築いていく姿を描く連作短編集「ナターシャ」から採られている。 苦労して50歳を過ぎてマッサージ治療院を開いた父の客集めに、子供…
2016年1月の読書メーター読んだ本の数:6冊読んだページ数:1460ページナイス数:5ナイスホワイト・ライト (ハヤカワ文庫SF)の感想読み終わったけれど、読めたという気がしない。主人公が神曲の地獄めぐりみたいな彷徨をゴキブリやカントルなんかとするとこ…
鶴鍋という言葉に引かれて読み進むが、ぜんぜん食な話ではない。 タイトルの倪雲林の絵を追うようにだらだらと話が進んでいき、いきなり話が終わってしまう。 ちょっと唐突すぎて、なんの話だったか、思い出せない。 こちらの教養の無さを咎めるべきかもしれ…
アンドレイ・クルコフ(1961年生れ)はロシア語を母語とするウクライナの作家。 日本語を勉強したこともあるという。「あなた方の心にもきっと同じような心の痛みが残るだろうと思います。その痛みから逃れることはできませんし、痛みは記憶の一部となるにち…
まるで椎名誠のような旅エッセイである。 ナポリに行って、小さな街角で楽団の素敵な音楽をコオフイ店で聴いていた、そのときの林芙美子の思い出である。 それに比して日本ではそこかしこにラジオががなりたてていて、近来不快なものはないと言い立てている…
これも北海道で二ヶ月ぐらい旅したときの、歌に関するエッセイである。 林芙美子は耳がよかったのだろう、と思う。 漁場の男たちが歌っている江差追分を絶賛し、料亭で芸者の江差追分はその足元にも及ばない書き方をしている。 こういう日本の歌は結局、再現…
夕暮れに百姓たちが水田に牛を追って耕作している図を、まるで絵画のように書き記している。 とても静かでわびしくて、まるでつげ義春の世界である。 こうした旅エッセイは知っている土地の、時代を越えて古いたたずまいを描いているものが面白いし、興味深…
後年、林芙美子は下落合に住んでいたようだ。 近所の店のこととか、近所の作家、尾崎一雄や吉屋信子などとの行き来を書いたりしている。 なんとなく林芙美子は中央線文化の人といってもおかしくない気もする。文泉堂版林芙美子全集第十巻所収
故郷の尾道へ昔の記憶をたどりながら、自分を振り返る旅のエッセイ。 駅へ向かう雑踏やら尾道までの旅程を内面と重ね合わせながら描く筆致は秀逸である。 最近の人が書く旅エッセイは読者サービスが行き届いているというか、安心して読めるというか、あまり…