「ナポリの日曜日」

まるで椎名誠のような旅エッセイである。
ナポリに行って、小さな街角で楽団の素敵な音楽をコオフイ店で聴いていた、そのときの林芙美子の思い出である。
それに比して日本ではそこかしこにラジオががなりたてていて、近来不快なものはないと言い立てている。
椎名誠林芙美子の筋立てを参考にしたとは思えないが、旅行家としての目が同じようなパースペクティブを持っていたと思わせる。
この頃はまだ人工的な音と自然的な音が聞き分けられていたのだと思われるのが、なんだかうらやましい。

文泉堂版林芙美子全集第十巻所収