林芙美子

「ナポリの日曜日」

まるで椎名誠のような旅エッセイである。 ナポリに行って、小さな街角で楽団の素敵な音楽をコオフイ店で聴いていた、そのときの林芙美子の思い出である。 それに比して日本ではそこかしこにラジオががなりたてていて、近来不快なものはないと言い立てている…

「江差追分」

これも北海道で二ヶ月ぐらい旅したときの、歌に関するエッセイである。 林芙美子は耳がよかったのだろう、と思う。 漁場の男たちが歌っている江差追分を絶賛し、料亭で芸者の江差追分はその足元にも及ばない書き方をしている。 こういう日本の歌は結局、再現…

「丹波丹後路」

夕暮れに百姓たちが水田に牛を追って耕作している図を、まるで絵画のように書き記している。 とても静かでわびしくて、まるでつげ義春の世界である。 こうした旅エッセイは知っている土地の、時代を越えて古いたたずまいを描いているものが面白いし、興味深…

「わが住む界隈」

後年、林芙美子は下落合に住んでいたようだ。 近所の店のこととか、近所の作家、尾崎一雄や吉屋信子などとの行き来を書いたりしている。 なんとなく林芙美子は中央線文化の人といってもおかしくない気もする。文泉堂版林芙美子全集第十巻所収

「田舎がへり」

故郷の尾道へ昔の記憶をたどりながら、自分を振り返る旅のエッセイ。 駅へ向かう雑踏やら尾道までの旅程を内面と重ね合わせながら描く筆致は秀逸である。 最近の人が書く旅エッセイは読者サービスが行き届いているというか、安心して読めるというか、あまり…

「戸隠山」

林芙美子は戸隠が好きでよく行っていたという。 しかし長野駅から戸隠の奥社まで歩いて登ったというのは本当だろうか。 そんなてくてく歩いていたら、すぐに日もくれてしまうだろうに。 こうした特別な場所が好きというのは、林芙美子の小説を読んでいるとよ…

「親不知」

とても短い北陸線親不知の旅を書いたエッセイ。 鯖のさしみは天下一品らしい。 林芙美子も心まで沁みたらしい。 まだ民家の屋根に沢庵石のような重しがのっていた時代の映しである。文泉堂版林芙美子全集第十巻所収

「京都」

京都の庭を語るなど、まだまだ先のことと書いている林芙美子だが、京都の風情をきめ細かさをうまく描いていると思う。 その静かなで趣味のいい人々や風景を自分なりに愛でているのだが、ほんのちょっとした言葉に古都への反抗のような心が見える気がする。 …

「京にも田舎」

周辺雑記。京と東京の比べ物。 龍胆寺雄に失望したって話も書かれているほど雑多な内容。 1935年ぐらいに書かれているから文壇から干されていく問題作「M子への遺書」の話なんだろう。 小林秀雄や川端康成も登場し、文壇の時事ネタをいろいろ推測するのも面…

「文学・旅・その他」

林芙美子のエッセイが面白いことに気付く。 特に旅のエッセイがいい。 これは岩波文庫にも収められている小編。 長旅は一人旅がいい、とか、小旅行は母とけんかばかりしているとか、講演旅行は最悪だとか。 なんとなく、椎名誠に似ているような気がするのは…

「外国の思ひ出」

パリで生活を綴ったエッセイ。 紅茶がどうとか食べ物がどうとか、パリの日本人とか、憂鬱になってロンドンにいったとか。 とりとめのないことを書いているし、さらりと時の話題とか思えるものも入ってくるし、寝転びながら読むには最適。 林芙美子のエッセイ…

「旅つれづれ」

伊豆の下田、長野の戸隠にふれた林芙美子のエッセイ。 伊豆は何度旅行してもいいな、とか、下田で男に生まれればよかったとか。 戸隠にはベルグソンやカントやバイロンを読む哲学青年が泊まっていたらしい。 京都あたりの学生が多かったらしい。 いまはどう…