「田舎がへり」

故郷の尾道へ昔の記憶をたどりながら、自分を振り返る旅のエッセイ。
駅へ向かう雑踏やら尾道までの旅程を内面と重ね合わせながら描く筆致は秀逸である。
最近の人が書く旅エッセイは読者サービスが行き届いているというか、安心して読めるというか、あまり毒がない。
そのせいか、林芙美子のこうした旅ものはどこかで他者を寄せ付けないようにしていて、それが郷愁を描く行間にあらわれ、深みが増していく。
文章もきりきりとしていて、味わい深い名文だと思う。

文泉堂版林芙美子全集第十巻所収