「あの頃、君を追いかけた」九把刀

「あの頃、君を追いかけた」九把刀

台湾作家の自伝のような青春小説。
よくある悪ガキたちの青春ものではなく、普通というより、優等生たちの恋物語といったふう。
中学から高校まで一緒だった主人公とその友人たち、そして彼等は共通の恋敵。
その恋の相手は学校一の秀才の少女であり、いわゆるマドンナといっていい存在。
そのマドンナから刺激を受けて、幼稚な主人公が猛勉強をしはじめて、彼の友人を巻き込んでいく。
いや台湾という先進国ではこうした勉強に明け暮れる青春が当たり前なのかもしれない。
なので、青春ものによくあるバイオレンスやバーバリックでビーストといったBなものはほとんどなく、
エキセントリックでエモーショナルなエティクスといったE的なトリガーが中心となっている。
なので恋物語はそうした内向的な話で展開していくのだけれど、それが現代的なのだろう。
この心地よく読んでられる安心感というのは、どこかに既視感がある。
それは「うる星やつら」のラムとあたるとのその友人たちの構図とよく似ている。
主人公とその友人たちはみんな、ラムが好きであり、エピソードは常にその恋愛感情に突き動かされている。
この台湾の若者たちがそれとかぶって映るのは偶然ではないような気がする。
この小説には日本のマンガのフレーズが数多く引用されている。
恋愛感情の土台、琴線に触れるものが台湾でも共有されているのだと思う。
それは押井守新海誠といった映画人がつくる光景とよく似たものなのだろう、と想像する。