「戸隠山」

林芙美子は戸隠が好きでよく行っていたという。
しかし長野駅から戸隠の奥社まで歩いて登ったというのは本当だろうか。
そんなてくてく歩いていたら、すぐに日もくれてしまうだろうに。
こうした特別な場所が好きというのは、林芙美子の小説を読んでいるとよくわかる。彼女の旅はやはり彷徨なのだ。そしてそこになにかがあると常に考えている。不思議な感覚を持った作家であり、個人が世界観を見出すことの先駆けだったと思う。

文泉堂版林芙美子全集第十巻所収