久生十蘭

「復活祭」

非常によくできた短編で、だれかヴィスコンティみたいな映画にしてくれるといいだろうなあと思わせる作品。 アメリカと日本、戦中と戦後の混乱のなかで生きた父娘のすれ違いが、目に浮かぶような描写とともに流れていく。 もうこういう作品は日本人では書け…

「西林図」

鶴鍋という言葉に引かれて読み進むが、ぜんぜん食な話ではない。 タイトルの倪雲林の絵を追うようにだらだらと話が進んでいき、いきなり話が終わってしまう。 ちょっと唐突すぎて、なんの話だったか、思い出せない。 こちらの教養の無さを咎めるべきかもしれ…

「春雪」

「春雪」久生十蘭 戦時下の恋、といえばいいのか。 あまりにエキセントリックでプラトニックな光景が描かれている。 話のうまさもあるが文章の流れも不思議な精神図をかいまみせている。 いまの世の中からしたら、それはやはり奇怪なものだろう。 偏向的な精…

「野萩」

「野萩」久生十蘭 戦前と思われる時代に西欧で暮らした日本人の生活が垣間見れる短編。 新青年の作家にふさわしい複雑なストーリーはいまひとつよくわからなかった。 それでも映画のシーンのような優雅さが感じられるのは、魔術師のような言葉使いがもたらし…

「予言」

正月はなにか長編を読もうと思っていたけれど、弛れていてダメだった。 この短篇はとてもよくできていて、ホラ話的にひきずりこまれる。 変わった主人公がとても変わった人生に巻き込まれていく、やはり異端作家にふ さわしい内容。 予言をされた通りに人生…

「黄泉から」

非常に戦後まもない雰囲気が色濃くでている十蘭の短篇。 フランス留学時代の記憶も漂う。 話の最後の文章が余韻を誘う。青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/cards/001224/card46077.html 久生十蘭全集第2巻所収 (三一書房)

「海豹島」

久生十蘭の「海豹島」にはなんと8種類の異稿があるらしい。 今日読んだ河出の「久生十蘭・文芸の本棚」には雑誌「妖奇」に発表されたものが掲載されている。 もう何十年も昔に読んだ教養文庫版も異稿のひとつらしい。 しかしこの北方の驚異物語とも言えるロ…

「電車居住者」

大正12年。十蘭、21才の作品。 最初期の作品らしい。ペダンティックな単語が綴られるあたりは、既に十蘭である。 内容的には関東大震災の直後に書かれたものらしく、荒廃した世界で電車のなか で暮らす人々を描いている。 主人公が寄る辺ない娘の未来を心配…