アバ、アバ

アバ、アバ
ABBA,ABBA
アントニイ・バージェス
翻訳:大社淑子
サンリオSF文庫
【紹介文】
ABBA ABBA ? それには幾層もの意味がある。
まず、作者の名を回文風に並べたもの。
また、十字架上のイエスが叫んだ「父よ、父よ」のアラム語訳。
さらにペトラルカ風ソネットの8行連の脚韻etc。
だが、というか、ところでローマの一詩人が神の美について、イギリスの一詩人が老いた雄猫についてソネットを書く。
互いの言葉はわからないが、世界中のソネットの背後に共通して一つの本源的な形式の輝きを認識することによって2人は触れ合う。
まるで猥雑なソネットを大量に書いたローマの方言詩人キーツとの喜劇的な触れ合いのように。
するとこれはプラトンへの回帰か?とんでもない。
真面目になどなっていられる場合ではないのだ。
全篇に氾濫する言葉遊び、駄じゃれ、仮装、身代り、聞き違え、性病の感染といったドルーズ=ガタリの代理者の鎖列と交替を接合したバージェスという誰かが戯れに組み立てた猿たちの神、文学機械なのだ。

【感想】
重々しい紹介文だし、笑ってしまうが、いたってストーリーは軽めである。
でも深くて交差的な構成の内容なだけに、一回目で読めたかどうかと言われるとよくわからない。
それでもジョン・キーツとローマの詩人ベッリとの出会いを描く様は英国とイタリアの言語空間の交錯を端正に記憶させてくれる。
バージェスのキーツシェリーといった詩人への思い入れは半端ではない。
改変歴史というガジェットを使わない分、より言語的な思推に満ちている。
前半はキーツが晩年に暮らしていたローマを舞台に、詩人たちが繰り広げる言語遊びが楽しい。
後半はベッリの詩が訳されているが、これはバージェスのイタリア人翻訳者だった夫人が訳しているらしい。
でも自分にとっては退屈で、ずいぶんと文学的素養がないと楽しめないのではないか。
しかし、ABBA ABBAという言葉はバージェスの墓石にも刻まれているらしく、この英国的な、あまりに英国的な作家の傑作にふさわしいタイトルだと思う。