「神秘昆虫館」

講談社国枝史郎伝奇文庫

【紹介文】
永世の蝶、永世の蝶!
雌雄二匹の蝶がいて、神秘の伝説を持っているという……。
時代は天保十一年の春、ふとした事件から蝶の存在を知った一式小一郎は、その蝶を求めて剣侠の旅に出た。
だが、彼の前に、同じ目的で立ちふさがる南部集五郎。
恋と欲望と、正義と邪悪と、全編にみなぎるロマンの痛快さ!
はたして、永世の蝶に秘められた神秘は何?
そして、江戸四方五十里内にある神秘昆虫館とは……?

【内容】
「永世の蝶」と健気な娘をめぐって繰り広げられる恋の争奪戦。
山界の異世界にあるという昆虫館に集うは浪人に、妖術使い、山人、異人、貴人とその盗賊たち。
どれもがキャラ立ちした登場人物ばかりで、国枝史郎先生お得意のエンターティメントである。
物語の破綻や謎解きのいい加減さなどはどうでもよく、大ボラ吹きをここまで通すことが奇跡なのである。
神秘はどこにもなく、人々の妄想が作り出すものだとすれば、なによりも物語の展開そのものに腰の骨を折るような理知的な要素は枕だけで充分なのである。
娯楽大作である「インディー・ジョーンズ」と同様の結構を持っている国枝史郎の小説は歌舞伎のようなものであり、見えを切ってなんぼのモノなのである。
しかしここまでお気楽なストーリーはいまの読者には受け入れられ難いのだろうか。
世知辛い世の中同様、イライラな空気を反映したばかりのような小説ばかり読んでいるのは辛い。
お父さんは時代小説(チャンバラ)が大好きなのは、そのためなのよ。