彼岸過迄

後期3部作の第1作である。
再読だけれど、ほとんど筋を覚えていなかった。
漱石はその序文で、数本の短編が集まってひとつつの長編を構成する作品、だと言っている。
しかし、そんな感じはなく、漱石らしい長編小説、あるいは新聞小説といった風だった。
修善寺の大患」後初めて書かれた作品ということで、ところどころ、それを連想させるような意識の流れもある。
また、「雨の降る日」に描かれる幼児の死は、漱石の五女・ひな子が雨の夜に突然死してしまった事をモチーフにしていると言われている。
この章がとても切ない。
その事実を知っている私たちには、まるで私小説のようでもあり、ほかで書かれているような近代知識人の苦悩とかよりも、よっぽど身に染みるものとなっている。
森鴎外のような横柄さが当たり前だった明治において、漱石の感覚は孤立していたのかも知れないが、現代に通じる情感があるからこそ、国民作家と呼ばれるのだと思う。

彼岸過迄 (新潮文庫)

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