虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官伊藤計劃
戦争は人間の器官に埋め込まれている機能の一部だとするSF。
近い将来、人間が持つデバイスが拡張されていったら、こんな光景になるんだろうなあ、といった背景。
ウィリアム・ギブソンの子供たちが書いた小説のようだといったらよいのか。
文体や雰囲気も早川SF文庫の海外翻訳ものを読んでいる感じがする。
確かにもうアメリカSFとの差はない。
どちらかというと今のアメリカSFの方が私小説的だと思える。
日本SFはライトノベルをくぐって、かつてのスペースオペラに近づいている。

ただ、この小説にはその双方の流れとは別な、いまの世界文学的な意識が強い。
それは表面的なエンターティメントよりも強烈に意識されている、戦場での「死」といったものが強く書き込まれているためだと思う。
それが60年代SF的でもあるし、ゼロ年代SF的なのかも知れない。
結果論あるいは印象、刷り込みなのだが、既に癌に犯されて物故してしまった作家の死への意識が色濃いのだと思う。
こういった才能が失われてしまったのは、ひどく寂しいことだし、とても身近に感じてしまう。