結晶世界

数十年ぶりに読み返す。
前半、こんなに読みやすい冒険譚だったっけ、と驚く。
その昔、何度も舟をこぎながら読んでいた記憶がある。
今回は早川版世界SF全集で読んだので、訳者が違う。
この峯岸久訳が読みやすいのかもしれない。
いまこの作品を読むと、コンラッドやフォースターといった、前世紀の英国植民地を舞台とした小説群とよく似ている。
バラードは軍人だったこともあるので、その頃の雰囲気もよく出ている。
シュールリアリズム的な光景は後半に横溢してきて、物語も壊れていく。
たぶんこの主人公や世界の輪郭が不明瞭になっていくあたりから、この小説は読みにくくなっていく。
世紀末的な雰囲気うんぬんで語られることが多い小説だが、後半はバラードが書きたいことを書いているのだろうから、なんとなく明るい未来の雰囲気が漂ってくる。
人間という種が別の次元の生物に移行していくこともありえて、不思議ではないという時代に生まれた傑作だと思う。