未見坂 (新潮文庫)

未見坂 (新潮文庫)

「未見坂」堀江 敏幸
いろんな人たちのいろんな光景を写し取った画像をモノトーンに編集し直したような短編集。
その切り取り方、細かな部分にこだわる編集の仕方が心地よい。
なんとなくポラロイドカメラで撮った写真のようであり、人々の出来事をアナログで写し取っている。
その映像はぼんやりとした色あせた色彩のように不思議な現実感が漂っている。

ここで描かれているのは、家族写真でもなく短編映画のようでもなく、まるで歴史のひとこまとしての記録写真のようだと思う。
それは無頼派私小説でもなく幻想小説でもなく、現代小説風でもない。
まるでサティの小品集のような味わいとでも言えばよいのか。
短い文章の連なりから情景が広がって見えるのは、ひとつひとつ言葉が選ばれているからだろう。
記録写真のように静かだけれど、ときおり意地悪く波立つことがあり、そしてまた穏やかな波紋に移り変わっていく。
心地よい静かな時間を過ごしたいときにお薦めの本。