東海道寄り道紀行

東海道寄り道紀行 単行本 – 2012/7/21
種村 季弘 (著)

[内容紹介]
ドイツ文学者、評論家にして温泉マニアの貴重な単行本未収録紀行文集。東海道周辺から、奥飛騨、山陽方面まで。お湯、鉄道、民俗の旅。

[感想]
ドイツ文学者である、故、種村季弘さんの単行本未収録の紀行エッセイ集。
真鶴に住んでいた著者の近場の東海道周辺から、信州、奥飛騨、美濃などへ足を伸ばした後年の旅行記
雑誌掲載の短めで軽めエッセイであるが、著者特有の衒学的な話も薄く鏤められ、それはもう明鏡止水のような文章が心地よい。
とても好きな書き手の未収録エッセイであり、もったいなくはあるが、一息に読んでしまった。
まだどこかにこうした老境の文章があるとうれしいのだが、もはや再読するしかあるまいな。
文学、歴史、民俗といった広範な知識を歩き語りするのだが、学術的な嫌味など微塵もなく、もはや好好爺としか言いようがないほどに俗間を漂っている。
この手の旅行記は、郷土料理や酒を散らかしてお茶を濁しながら、自分を語るものが多くて、げんなりする。
かといって文学知識が先行する先生的な文章でもなく、温泉のようにまったりしているところが、ほかの書き手とは一線を画している。
歩き語りのなかでは泉鏡花の作品の背景が一貫した流れのような気もするが、和田芳恵や田中冬二、藤枝静男折口信夫国枝史郎などへの慕情が滲み出ていて、心地よい。
また、温泉好きの種村季弘さんがたどり着いた温泉場でそばや酒を召している姿がほほえましく映ってくるのが、とてもうらやましく思える読み物である。

東海道寄り道紀行

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