「地球防衛軍」

地球防衛軍」ディック
「永久戦争」所収 浅倉久志

冷戦時代が作り出したシニカルな短篇。
いま読むと、米国とソ連が和平を結べば地球は平和になり、人類は進歩するはずといった理屈が浅はかに見えてしまうほど、その後の世界の動きが後退し続けている印象をもつ。
それだけ冷戦下にはいろんな人種が抑えつけられていたという事実でもある。
それでもふたつの大国が手を結べば「新しい故郷」がつくれるはずだという、人間の進歩観はディックの楽天性が表れている。
単一民族に近い日本人よりも他民族国家の米国人なのだから、そこには日常的な不確実性も含まれているはずであり、そうした不信感があったうえでの人類の未来を語るディックは信用できると思う。
後年の神秘主義への傾倒も人類を信用しようとしたからではなかったかと思う。