「赤い星」高野史緒 早川書房

これは高野史緒の最高傑作なのかそれとも最高失敗作なのか、どちらとも判別つかないが、とにかく「最高」なことだけは確か。
SFとしてはこういう粗筋だけで突っ走る小説はいくつも読んだけれど、これほど不親切で強引なものはなかったと思う。
さすがに高野史緒にしか書けないペテルブルクでの日本人音楽家が惑うあたりは、とてもナーヴァスな物語になっているが、それ以外は傍若無人のアイディアの嵐。
もったいないというか、なんというか、著者もあとがきで書いているけれど、そのアイディアの放出には後悔していない模様。
ただひたすら、「時間を無視したロシア史」やら「幻のペテルブルク」が書きたかったらしい。
ストーリーはプーシキンの「ボリス・ゴドゥノフ」の換骨奪胎と種を書いているけれどもこちらは未読なのでなんとも言えず、ロシア帝国配下の「江戸幕府」という異様な光景に得も言われず。
もっともっと読みたいのに、この分量では飽き足らず。
思うにこれは「帝都物語」のようにもっと水で薄めて、細部をもっともっと書きまくって大長編「江戸の赤い星」にするしかない類いのものです。
きっと著者も不完全燃焼であるに違いないので、ぜひぜひ江戸ロシアの再リミックスをお願いします。

赤い星 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

赤い星 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)