「亡命文学論」沼野充義

「亡命文学論」沼野充義 作品社

徹夜の塊 亡命文学論

徹夜の塊 亡命文学論

この人の知的領域はロシアだけに留まっているのではなく、バイリンガルという人々が紡ぎだす物語に集約されていく。
そしてこの地球にロシア語という英語並みな共通言語があるという事実を教えてくれる。
アメリカ文学が世界文学だと思っていると、ポップスのように永遠につまらなくなる。

例えば、そのアメリカに亡命したエドゥアルド・リモーノフの自伝的小説「おれはエージチカ」は、英語の語彙が全面的に入り混じったロシア語という、今の世界観を映している。

あるいは、

「ボストン在住の亡命ロシア詩人ナウム・コルジャーヴィン
が戯れに英語で、脚韻まで踏んで、作った二行詩に、こんな傑作
がある。

I spoke English very good,
But nobody understood.
[俺はとても上手に英語を喋ったが、誰にも通じなかったよ]

この本によればトルストイもフランス語が入り混じった小説を書いていたらしいが、和訳ではその雰囲気が消されているらしい。

どうも日本のロシア文学者というのはその退屈な文学性から生真面目な人が多いらしい。
あるいはロシア本国でもそのような傾向にあり、楽しい文章を書ける作家はあまりいないらしい。
そこに登場した亡命評論家ワイリとゲニスというのは、非常にユニークなペアらしい。

亡命ロシア料理

亡命ロシア料理

「亡命ロシア料理」未知谷 は、

ソ連から亡命してアメリカにやってきたロシア人の文芸評論家が、アメリカの不味いジャンク・フードを罵倒しながら、故郷の味を懐かしみ、本物のロシア料理の作り方を読者に伝授すると同時に、ロシアとアメリカの両者を視野に入れた文明批評を行った本である。

そのほかの面白そうなロシア本

・亡命ロシア文化最後の花、ニーナ・ベルベーロワの
「伴奏者」河出書房新社、「鉄の女」中央公論社

伴奏者/オリジナル・サウンドトラック

伴奏者/オリジナル・サウンドトラック

・日本の英文学者とロシア文学者がはじめて
プロジェクトを組んだという、「ナボコフ短編全集」全二巻 作品社