「キマイラの新しい城」殊能将之を読了。

迷探偵石動戯作とその助手アントニオの探偵物語の最新作。
テーマは、天使は三段論法ができる、です。
なんだかよくわからないと思いますが、これは聖トマス・アクィナスの言葉であり、今回の殺人事件の解答はこの言葉にあるのでした。
これはネタバレですが、読んでみないと意味するところはわからないと思います。
さて、いつでもヒネリを畳み込まないと気がすまないこの推理作家の新作のひねくりは、殺人事件の依頼主が、被害者であるということです。
なにそれ?ですが、ようは死後の世界というやつで、750年前のフランスの騎士の亡霊自身が殺された自分の犯人を探して欲しい、というものなのです。
とは言っても歴史ミステリでもなく、現代日本のしかも東京の代表的観光地である六本木ヒルズがその舞台のひとつだったりします。
もうばかばかしくて読まずにいられない、のですね。さらに作者の新境地というか、まるで香港映画のような楽しい活劇シーンも挿入されていたりと、お薦めの一冊なのであります。
これは参考文献に掲げてあるマイケル・ムアコックの剣と魔法の物語へのオマージュであるせいかも知れません。
そうした中世騎士物語的なファンタジーや中世スコラ神学の魅惑的な雰囲気を織りまぜながら、新本格派的な推理をぬかるんだ現代日本を舞台に繰り広げられるのは、殊能将之しかいないでしょう。
そのあまりにばかげた推理には、亡霊もあきれて退散するほどの顛末が待っているなんて、よくできたお話なのです。これからも続くと思われるこの探偵物語、助手のアントニオが一体何者なのか、超自然的な存在との対決みたいな話になっていくのか、まだまだ楽しませてくれる余地がたっぷりありそうです。
キマイラの新しい城 (講談社ノベルス)