「バーナム博物館」スティーヴン・ミルハウザー

『バーナム博物館』は、表題作をふくむ十の短編を収めた幻想短篇集である。
表題作は、怪奇趣味とノスタルジーで彩られ、街の人々に愛されている、奇妙な博物館を描く「バーナム博物館」。
幻想小説に特有な「迷宮」や「魔法」や「幻影」といったノスタルジックなキーワードが彩られている言葉使いは、博物館の展示品そのものの有り様に連想される。
また、『アリス』や『千一夜物語』などを下敷きというか、著者の妄想のままに換骨奪胎した短編がいくつも収められている。
それ等はとてもマイナーな味覚なので、万人におすすめできるような小説群ではない。
そのため、ハマる人にはハマる、幻想オタクに近い虚構世界。
引退したはずのシンバッドの幻の第八の航海や、想像行為の限界を描く「ロバート・ヘレンディーンの発明」などは、ボルヘスに近い味覚であり、王道に近い幻想文学であって、いろんな妄想の小箱が静かな海に漂っている感じ。
緻密な妄想を細部に宿す作風は、奇妙な懐古趣味と相まって、わけのわからないものと一緒に洞窟に閉じ込められた悪夢のようでもある。