【理解】

薬物投与で常人を超えてしまった人間の心と行動を描いた短編。
伝統的なSFテーマと言えるそれだが、いままでは超人が社会に対して起こす出来事を中心にその桁外れの有様を描くのが常套だったが、この短編では超人という人間が一体何を考えているのかといった、そもそも常人が超人の精神を考えられるのか、といった不可知な領域にテッド・チャンは挑んでいる。
それこそテッド・チャン自身、超人並みの思考力を持っていないとこんな作品書けないよな、といった結論になるのだが、アルジャーノンを書いた作家のアプローチがテッド・チャンにかかるとこんなにも印象が違うのかねといった思いがする。
難解ではあるのだけれど、一文字で複雑な思考を表わすというのは、古いけれど山田正紀荒巻義雄を思い出したり。
本業ではなく、趣味でSFを書いている人らしい生硬的な小説ですわ。

「理解」テッド・チャン 公手成幸訳
「90年代SF傑作選・下」早川文庫