「オリクスとクレイク」アトウッド

オリクスとクレイク

オリクスとクレイク

最近、豚の体内で別種の臓器を生産する技術の開発が進んでいるニュースがあった。
このカナダの女性作家による物語は、クローン豚の体内で人間の臓器生産を推し進めた末にクローン人間の生産に成功する未来社会を舞台としている。
ごく限られたエリートと幼友達との交友を軸に、惨憺たる世界を描いている。
小松左京復活の日」にも似たウィルスによる最後の日をむかえ、生き残ったスノーマンは人類が破滅に至る日々を回想する。
ただ人類が滅んでいく光景は、冷戦の時代に書かれた「復活の日」が政治的な状況を背景に織り込んでいくのとは異なり、個人の意識を通してじわじわと破滅を迎えていくのがとても現代的だと思う。
オリクスとクレイク、そしてスノーマンが生きた小さな世界の出来事からだんだんと灰色に染まっていく世界の描写に至るまでの筆致はオーウェルヴォネガットといった人類の未来に対する警告に満ちた文学と隣りあっている。
SFといってもよいのだが、あまりに文学的な人間たちの葛藤を描く様は、ブッカー賞の候補ともなったニュースにも肯定できるものがある。